MGFが発売されたのは1995年、かつてのBMC(ブリティッシュモータース)、BMLC(ブリティッシュ・レイランド)の流れを汲む企業は、紆余曲折の末、ローバーグループとなり、ローバー以外のブランドを全て切り捨てましたが、それ以降、久々のMGブランドの復活でもありました。
MGは、ブリティッシュモーターの中で、比較的リーズナブルでスポーティーな車を得意とするブランドで、特にコンパクトな2シーターのスポーツカーが有名でしたが、このMGFも、その例に漏れず、コンパクトな2シーターとして登場しました。
その背景には、1989年に登場した、マツダのユーノス・ロードスター以降、既に絶滅状態にあった、この市場の復活が挙げられ、同時期、ロータス・エラン、フィアット・スパイダー、フィアット・バルケッタといった同クラスの車が発売されています。
そんな中で、MGFの最大の特徴は、ミッドシップのレイアウトでしょう。
既存のFFのメカニズムを、そのままシートの後ろに積んだものでしたが、全長4m弱で、5ナンバーに収まるサイズでした。
ローバーと言えば、80年代初頭より、ホンダとの関係が強かったのですが、94年に突如BMWによって買収され、その関係は、次第に薄れていきましたが、この車は、エンジン、シャシー、駆動系と、全て自前のもので、ホンダの影響は殆ど見当たりませんでした。
1.8リッターのエンジンは、決してパワフルなものではありませんでしたが、1トンの軽量な車体を小気味良く走らせるには十分なものでした。
正直、この車のドライビングフィールは、同世代のトヨタMR2、次世代のMR-S、マツダ・ロードスター辺りと比べても、楽しいものでした。
…が、この車の最大の欠点は、やはりローバーグループに付き纏った、品質問題でした。
シリンダーヘッドガスケットからは、当たり前の様に冷却水を「吹き出し」ました。
正直、こんなに一目で判る「ヘッドガスケットの不良」は、近年、珍しいものです。
シリンダーヘッドの位置決めに使う「ノックピン」が、何故かプラスチック製で、それが割れて、ヘッドが移動してしまうのです。
カムシャフトのプーリーが緩んで外れ、タイミングベルト破壊・・・。コレはリコールが有った様ですが、日本仕様でしかもニュージーランドに来ているとあり、検査に漏れたのでした。
リアサスペンションのトップマウントを突き破ったものもありました。
プラスチック製燃料タンクは、製造時の「繋ぎ目」から、微妙にガス漏れして、室内に充満しました。
ボンネット(スペアタイヤや電装系、若干の荷物室?)に水漏れし、それがワイパーモーターを直撃…コレも10万を超える様な修理代になりました。
一度、頻繁にヒューズが飛ぶ…というクレームが有り、点検していると、ドアを開け閉めした時に、ヒューズが飛ぶことを確認しました。
結局「熱線入りミラー」の配線が外れて、ドアの開け閉めで、配線同士が接触していたのですが、プラスチック製のカプラーを使用せず、素人仕事の様な粗末な配線故の事でした。
ドアガラスのストッパーは、何故か安物のプラスチック製で、コレも当たり前の様に壊れ、ガラスが上がり過ぎて、ドアが閉まらないなんてのも、頻繁に起こりました。
コーナーリング中、ドアミラーの調整レバーが吹っ飛んできます。
正直、強度計算以前に、私の様な素人にでも判る様な常識的な事が出来ていないレベルだったのです。
これは、なにも大昔の話しではなく、90年代も後半のことでした。
私がニュージーランドに居た当時、ローバージャパンが閉鎖され、日本で販売されたローバー系の車が、軒並みニュージーランドに来たのですが、流石はイギリス文化の国、手ごろな価格もあり、結構な人気を誇ったのですが、同時に、様々なトラブルを発生し、私たちを手こずらせることになりました。
反面、BMC以降の伝統、ハイドロガス式のサスペンションは、日本では気温の変化で車高が上下する等、何かとトラブルを起こしていた様ですが、最低気温が高く、年間の気温差の少ないニュージーランドでは、比較的問題が少なかったと思います。
同じく日本で言われていたリアガラスの割れも、同じく気温のせいか、余り問題にはなりませんでした…少なくとも私が関わっていた当時は…。
そして意外なのが、何故か一度もクラッチの交換をやった事が無いのです。
これは、元々ラッシュ時の通勤に使う様な車で無い事、そしてラッシュ時以外は比較的穏やかな交通事情、軽量な車体に程々のパワーによるものかと思います。
よく、フランス車はダメ、イタリア車はダメ…と言いますが、私の中で最もトラブルが多かったのは、間違いなく、このMGFでしょう。
流石に、これだけ品質問題が多く、更にローバーを扱う店が無くなってしまった今日、ニュージーランドでも、その維持は難しく、年々台数を減らしています。
様々な苦労はしたけれど、小気味良い走りが懐かしく、気負う事無く、等身大で乗れるスポーツカーとして、今でも印象に残る一台ですね…。日本にも殆ど残っていない様ですし、北米には皆無とあって、もう見る事の叶わない一台でもあります。
逆に、コレで走りが悪かったら…憎悪の対象になっていたかも知れません。